僕の彼女は元カレクズ男のオナホでした
包まれたい背徳感がほしい非日常感がほしい
読んでいたところから開きました
言い出したのは、向こうの奥さんのほうだった。
四人で飲んでいて、話が一周して、酔いの底が抜けたあたり。「一回だけ、交換してみない?」と、彼女はまるで席替えの提案みたいに言った。誰も笑わなかった。笑えなかった、が正しい。
私は普段、こういう場でいちばん引く側だと思われている。会社でも、飲み会の終わりに一人だけ真面目に会計をまとめている人。だから、私が最初に「いいよ」と言ったとき、三人の目が同じ形になった。その顔が見たかった、という気持ちが、たぶん半分あった。
決めごとは彼女が紙に書いた。ゴムは必ず。写真も録音もなし。相手が「やめ」と言ったらその時点で全部終わり。四人が終わったあとに一人でも「なかったことにしたい」と言えば、なかったことにする。四人分の名前を書いて、それで成立した。
部屋を分けた。壁一枚。
彼女の夫は、私の彼より手が大きかった。
それだけのことなのに、鎖骨をなぞられた時点で、私はもう自分の体の反応が普段と違うことに気付いていた。知らない手の温度は、知らない、というだけで情報量が多い。次にどこへ行くのか予想できない。予想できないから、体は一手ごとに驚く。
「震えてる」
「……寒いだけです」
嘘だと分かる言い方をしてしまった。彼は笑って、それ以上訊かなかった。訊かないまま、ブラウスのボタンを上から順に外していく。急がない。急がないのが、いちばん効いた。私は自分が脱がされていくのを、他人事みたいに見ていた。
壁の向こうから、声が聞こえた。
彼女の声だった。そして、彼女が呼んでいるのは、私の彼の名前だった。
そこで、私の中の何かが決壊した。悔しいのではない。悔しさに似た形をした、もっと熱いものだった。自分の男が誰かを気持ちよくさせている音を聞きながら、別の男の手で下着を下ろされている。この状況を作ったのは自分で、逃げる資格もない。逃げたくもなかった。
「聞こえてるね」
「……はい」
「集中できない?」
「逆です」
正直に言ったら、彼の手が急に容赦をやめた。下着を横にずらして、襞を割って、指が二本、いきなり根元まで入ってきた。
クリを指の腹で押し潰されて、私は最初の一回を、驚くほど早く迎えた。
壁の向こうの声と、自分の声が重なる瞬間があった。同じ高さになったのが分かって、それだけで中が締まった。中の指を掻き出すように動かされて、水音まで壁の向こうと重なる。私たちは違う部屋で、違う相手と、同じことをしている。その事実の輪郭が、触られているどこよりも鋭かった。
「ここ、すごい濡れてる。旦那さんの声で?」
「……知らない」
「聞かせたほうが早いかな」
彼は私の体の向きを変えて、壁のほうを向かせた。四つん這いにされて、耳が壁に近づく。向こうの音が、輪郭を持ってはっきりした。息の継ぎ方まで分かる。彼女がイく直前の、声が細くなる感じまで。
その音を聞かされながら、後ろから入れられた。
根元まで挿れられて、抜けるぎりぎりまで引かれて、また奥まで。一突きごとに、頭の中で二つの映像が入れ替わった。
向こうの部屋で彼女が何をされているのか。それを、私の彼がどんな顔でしているのか。想像しているあいだも、私の中は別の男でいっぱいで、奥を叩かれるたびに考えが途切れる。途切れて、また同じところに戻る。この往復が止まらない。
「奥、好き?」
「好き……っ、そこ、ずっと」
普段の私は、こんな声を出さない。出さないようにしている、が正しい。真面目そうに見られているのは、そう見えるように黙ってきたからで、黙るのをやめた瞬間の自分がこんなに大きい声を出すことを、私自身が知らなかった。
壁の向こうが静かになった。終わったのだと分かった。分かった瞬間、私の中がぎゅっと締まって、彼が短く息を吐いた。締めつけたまま子宮口を叩かれ続けて、私はそこで一度、噴いた。
「今の、聞こえたよ。向こうにも」
その一言で、二度目が来た。中だけで、深いところから。腰から下の感覚がまとまらなくなって、私はシーツを掴んだまま、しばらく戻ってこられなかった。
四人で戻ったリビングは、拍子抜けするほど普通だった。
彼女が水を配って、私が受け取って、男二人は何も喋らなかった。私の彼が、私の顔を一度だけ見た。何か言おうとして、やめた。
「気まずい?」と彼女が訊いた。
「思ってたより、ちゃんとしてた」と私は答えた。それが本当だったので、そう言った。
紙に書いた決めごとは、彼女が最後に破いて捨てた。次があるかは、四人とも口にしなかった。口にしないまま、私はその夜のことを、いまでも一番よく覚えている。
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今夜のものを見るこの物語は創作です。登場する人物・団体はすべて架空で、 描かれる行為はいずれも成人どうしの合意の上のものです。