イズミ
独占されたい見られる緊張が好きバレそうな緊張が好き
読んでいたところから開きました
深夜二時。彼はカーテンを開けて、ベランダの窓を指した。十一階。向かいは川で、対岸は豆粒ほど。誰にも見えない距離は、二人で何度も確かめた。
「見てるのは、俺だけ」
その言い方が、ずるかった。
夜の空気は、手触りがあった。部屋の中では服の内側にあった肌が、一歩出た瞬間、風に全身を一度になぞられて、「外にある」ことを知らされる。八月の夜なのに、鳥肌が立った。寒さではないもので立つ鳥肌があることを、初めて知った。
彼は窓の内側、椅子に座って、こちらを見ている。ガラス一枚を挟んで、触れられない距離。視線だけが届く。その視線が、部屋で受けるどの視線とも違う濃さで、肌に刺さる。
「後ろ、向いて。……そのまま、手すりに掴まって」
従うたびに、呼吸が浅くなる。見られている。誰にも見えない場所で、たった一人にだけ、全部を。恥ずかしさと昂ぶりが同じ濃度で肌の上にあって、脚のあいだが、外気の中で、じわりと潤むのが分かった。夜風がそこを撫でて、濡れているのを、風にまで知られている気がした。
彼は動かない。ただ、見ている。見られているというだけで、私は自分の手を、下着の中へ滑り込ませていた。指が触れる前から濡れていて、剥き出しのクリを自分で転がす。ガラス越しに、彼の喉が動くのが見えた。
窓が開いた。
彼が出てきて、後ろから抱きしめられた。外気で冷えた肌に、部屋の温度の体が重なる。その温度差が、そのまま快感になった。冷えた背中に、熱い胸。冷えた首筋に、熱い息。
「震えてる」
「……寒くないのに」
「知ってる」
外で聞く彼の声は、壁の反射がなくて、まっすぐ抜けていく。その声で名前を呼ばれて、膝から力が抜けた。彼の手が、外気に晒された前へ回って、濡れているのを確かめる。「こんなに」と、耳元で。夜風と、背中の熱と、確かめる指。三つに同時に触れられて、私はほとんど立っていられなかった。
声を出せないのが、いちばん効いた。下の階の窓は開いている。クリを指の腹で転がされながら、私は自分の手で口を塞いだ。塞いだぶん、鼻から抜ける音が大きくなる。彼はそれを聞いて、わざと速さを変えた。我慢しているのが分かるほど、指が意地悪になる。
手すりを掴んだまま、後ろから根元まで挿れられた。声を殺した状態で奥を突かれると、快感の行き場がなくなって全部下腹に溜まる。肌を打つ音だけが夜の外に響いて、そのことがまた効いた。イく瞬間も声を出せなくて、代わりに中が思いきり痙攣した。彼はそれで気づいて、「いま、イった?」と耳元で聞いた。頷くだけで、また来た。
最後まで、そこではしなかった。それも先に決めてあった。続きは部屋の中で、カーテンは開けたまま。窓の外の夜がずっとこちらを向いている気がして、私はいつもより早く、いつもより深く、崩れた。
終わってから、二人でベランダに戻って水を飲んだ。
「癖になったら、どうしよう」
「なったら、また」
見られたい、という気持ちの正体が、少し分かった夜だった。誰でもいいわけじゃない。見ていてほしい一人に、全部を見られたいだけだった。
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今夜のものを見るこの物語は創作です。登場する人物・団体はすべて架空で、 描かれる行為はいずれも成人どうしの合意の上のものです。