合図は指の音

催眠・洗脳指示・管理ボイス思考停止・快楽依存

3分で読めます・1,4782026年8月26日

「催眠なんて、かからないよ」

「知ってる。だから“かかったふり”でいい」

指を鳴らしたら、私は「かかったふり」をする。もう一度鳴らしたら戻る。嫌になったら「終わり」で全部終わり。ルールは三つだけ。ふりならできる、と頷いたのが始まりだった。

* * *

パチン。

「あなたは今、自分の体を自由に動かせません」

茶番だと思った。思ったのに、「ふり」を引き受けた瞬間から、妙なことが起きた。動かない“ことにした”腕は、本当に動かす気が起きない。自由を手放すのに、才能はいらなかった。同意だけでよかった。

「右手だけ、動かしていいよ」

言われた右手だけが、自分のものに戻る。彼女の指示が、体の所有権を出し入れする。ばかばかしい遊びのはずが、指示と指示のあいだの静けさで、呼吸だけが大きく聞こえる。

「目を閉じて。今から触る場所を、先に言います」

宣言してから、触る。首筋、と言われてから来るまでの二秒間、そこは触られる前からもう熱い。予告は、実際の接触より効く。彼女はそれを知っていて、間をわざと長くする。乳首、と言われて、来るまでのあいだに、そこはもう自分から尖っている。クリトリス、と言われたときには、宣言だけで下着が濡れた。

「次は、言いません」

予告が消えた途端、全身が聞き耳を立てる皮膚になった。次にどこに触れられるか分からない。分からないまま、皮を剥かれたクリに、ふいに濡れた指が触れて、私は自分の声の大きさに驚いた。彼女はそこを、爪を立てずに、ゆっくり転がしはじめる。逃げようとした腰は、「動かない」と言われたことを、律儀に守っていた。

* * *

「ふり、まだ続いてる?」

途中で彼女が訊いた。意地の悪い質問だった。

続いているなら、この震えも演技だ。続いていないなら、私は本当に、指の音ひとつで明け渡したことになる。

「……わかんない」

「正解。わかんなくなるのが、いちばん気持ちいいところ」

そこから先、指示は少しずつ短くなった。文章が単語になり、単語が指の音だけになる。パチン、で息を吸う。パチン、で力を抜く。パチン、で脚を開く。考える係を完全に彼女に預けて、私はただの反応になった。中に沈んだ二本の指が、上側のざらついた場所を腹で押し上げる。そのたびに頭の中が真っ白になって、次の指の音を待つことしか、できなくなる。

思考が止まったところで、彼女は中の一点を、続けざまに叩きはじめた。親指はクリに置いたまま、離さない。内と外を同時に、同じ拍で。逃げようにも、体はもう彼女の合図でしか動かない。逃げる、という指示は出ていなかった。

最初に来たのは中だった。鋭さのない、下腹全体が内側から押し広げられるような波。声も出ないまま指を締めつけているのが自分でも分かって、それでも彼女は掻く手を止めない。掻き出される音が部屋にずっと鳴っていて、その水音で自分がどれだけ濡れているかを知らされる。イってる、と言おうとしたら、パチン、と鳴った。「まだ」の合図だった。三本に増やされて、剥き出しのクリを親指で潰されながら、私は指を抜かれた瞬間に噴いた。明け渡した体のまま、その夜、何度中でイかされたのかを数えられなくなった。

* * *

パチン、パチン。二回の音で、遊びは終わった。

「おかえり」

「……ただいま」

体を起こすと、世界の輪郭が少しだけ新品だった。彼女は水を渡しながら、種明かしをした。「催眠じゃないよ。あなたが自分で預けたの。私はただ、預かってただけ」

預ける相手を間違えなければ、明け渡すことはこんなに気持ちいい。返してもらった体で、そんなことを考えた。

「またやる?」

「……合図、覚えといて」


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この物語は創作です。登場する人物・団体はすべて架空で、 描かれる行為はいずれも成人どうしの合意の上のものです。